ロボット支援腹腔鏡下膀胱全摘除術+腔内尿路変向術

局所進行性で筋層浸潤膀胱癌の患者様に対する手術です。今までに開腹手術の既往を有さない方で、膀胱全摘除術により癌の根治の可能性の高い方が対象となります。本術式は開腹手術に比して、傷が小さく痛みが軽度で、手術後の回復が早い、手術中の出血量が少ない、入院期間が短いなどの利点があります。これらは論文などで既に確認されております。また、術後の尿禁制(代用膀胱の場合)や男性機能(男性患者様の場合)といった、生活の質(QOL)や機能的な回復が早く、機能温存の可能性も高いと考えられています。
最近ではロボット支援下膀胱全摘術の中短期成績が報告され、開腹手術と比べ再発率と生存期間に差はない結果が報告されました。まだ長期成績が出ていませんが、開腹手術と比べ遜色のない成績が期待されます。一方、「腹腔鏡下膀胱全摘除術」にも欠点があります。開腹手術の既往がある方や腹腔内癒着がある方には従来の開放手術の方が安全です。

膀胱が摘出されると尿を流す道(尿路再建)が必要になります。一般的に尿路再建術は腹部の創外(体腔外)に臓器を設置して行われます。当科では全国に先駆けて臓器を体腔外に設置することなく、全てお腹の中(体腔内)の操作で尿路再建を行う腔内尿路変更術を行っております。腔内尿路変更術の利点は①低侵襲性、②気腹維持による出血量の減少、③剥離操作の短縮による血流維持(尿管や遊離腸管の狭窄抑制)、④腸管機能の早期回復、⑤早期退院などがあげられます。一方、欠点としては①手術時間の延長、②手術操作の煩雑があげられます。故に、世界的にも腔内尿路変更術が行える施設は限られています。

手術治療の目的

膀胱全摘除術は筋層浸潤を認める膀胱癌に対する有効性が確立された唯一の治療方法です。浸潤性膀胱癌に対し癌をすべて摘出する根治的治療を目指した手術法ですが、時に延命や余命における生活の質を確保する目的で行われる場合もあります。

手術法としてはロボット・ダビンチを用いた腹腔鏡下膀胱全摘除術と開腹手術がありますが、いずれの方法にも利点欠点はあります。ここで説明するロボット・支援腹腔鏡下膀胱全摘除術は従来の腹腔鏡下手術における腫瘍根治性と合併症の発生率の低下や術後機能回復を向上し、安全性を高めることが可能となり国際的にも施行されている手術方法です。

  • 手術治療の目的01
  • 手術治療の目的02

本手術の手順・注意点

  1. 腹部にポートを設置。(切開穴は8-15mmで、全部で6カ所)
  2. 設置したポートや鉗子に手術ロボット・ダビンチを装着。(ドッキング)
  3. 膀胱周囲を剥離し、尿管を切断、カテーテルの留置。
  4. 男性では前立腺と伴に膀胱全摘除。女性では子宮や卵巣を同時に摘除することもあります。(この際、腫瘍浸潤が無いと予想される骨盤内臓神経や前立腺外側の神経血管束は出来うる限り温存する)
  5. 止血。
  6. 摘除した腫瘍は専用の袋に入れポート部分や膣断端(女性の場合)より摘出。
  7. 骨盤リンパ節郭清。
  8. 尿路再建:尿管皮膚ろう、回腸導管、代用膀胱を施行。

手術時間は概ね約4-8時間(尿路変更法による)を予定しています。

当科における実績

当科では平成21年8月よりロボット支援腹手術を開始し、現在までの施行手術実績は以下に示す如くです。泌尿器腹腔鏡技術認定医を取得している医師は8名在籍しています。

手術実績(2011年1月から2018年12月まで)
ロボット支援膀胱全摘除術……33例

当科における実績

ほとんどの場合で手術は安全に行われ、術後の順調な回復が期待されますが、100%の安全確保と期待通りの術後の回復が得られるとは必ずしも限りません。正確な数字をお示しすることは困難ですが、数%以下の低い確率ではあっても何らかの合併症が発生し、場合によっては致命的な事態に発展する可能性も常に存在することをご理解下さい。